一日目

禁煙を「始めました」というのは、はじめから逃げている部分が無きにしもあらず。本来であれば、タバコを「やめました」と言わなくてはいけない。禁煙を「はじめる」のであれば、いつかは「終わる」のかもしれないが、「やめる」のであれば後は何も無い。
いわゆる、過去分詞と動詞過去形の違い。僕は「やめた」。

なぜ、突然、僕はタバコをやめようと、思い立ったのか。端的に言えば、タバコを吸っている場合ではない、という風に思い立ったわけで。
こう書くのであれば、その理由も書かなくてはいけないだろう。なぜ、タバコを吸っている場合ではないのか。もっとクリアなビジョンが欲しい。考えるべきことは多々あり、思いつくことも多々あるけれど、一向にそれが明確な姿を持ち得ない。断片的な、局部的な、フェティッシュの残像、ブレインストームの残嘯。可能性の浜辺に立ち、そこに押し寄せる波を連続性ではなく、一つ一つ独立したものとして僕は見ていた。

まだ、一日目。後頭部に固まるぼんやりとしたしびれ。後頭部に太いしびれが突き刺さっている。のどの奥で大勢の小さな何かが一生懸命に手を伸ばして叫んでいる。「冷たいギフト」のような、禍々しいものが同時に非常に親しく、それについ愛を感じてしまうある種のナルシシズム

リミット。感情のリミットはタバコによってかけられていたのだな、とあらためて感じる。体の末端は暖まる。テンションはあがりっぱなし。過呼吸時の高揚と同質の。
後頭部に突き刺さった欲求は僕の目を前に押し出している。落ち着かない。と、同時にこんなに簡単なことで非常に未来に対してポジティブになれることに「わくわく」していることに我ながら驚く。寒さは感じない。